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     洗濯ものを干し終えて、カフェオレにハチミツを溶かして作ったハニーラテをポットに入れ、あらかじめお湯をくぐらせて温めておいたお気に入りのウォーホルのマグカップを持って、ナリコは二階に上がってきた。
     今から仕事。
     いつもは一人のこの家に、市川がいるのが不思議な感じ。
     いつものように一人なら、なんの気兼ねもなく、好きなミュージックを好きな音量で聴いているけど、階下に眠る市川を起こしたくないので今日はヘッドフォンを使っている。
     同じアルバムをエンドレスリピートで。
     市川にも夏目にも呆れられるが、ナリコは何か気に入ったものがあるとそればかりになりがちだった。
     麻婆春雨にハマった時は、週三で食卓に並べてしまっていた(市川も夏目も、その優しい性格からそれをとがめることは遂になかったが、内心ちょっとイヤだったろう、と、今は少し反省している)。ライブがあれば遠方まで駆けつける程大好きな、ナリコお気に入りのお笑い芸人のDVDが発売されると、二ヶ月間、毎朝見ていた(そして毎回ウケていた)。同じ映画を八回観に行ったこともある(その内五回は沙耶と行ったらしい)。十年以上前に買った本を未だに繰り返し読んでいる(「読み過ぎで表紙が外れた本を初めて見たよ、しかもたった一人の人間の手で…」と、市川と夏目はそれを手にとり、驚愕の目でナリコを見ていた)。
     ナリコはハズレを引くのを嫌がった。その魅力を熟知していて必ず気持ちよくなれるもの、新しくなくても確実なものをナリコは好んだ。
     そんな風にしつこいところがナリコの欠点であり、また同時に良い所でもあった。そしてナリコはそんな自分の性格が嫌いじゃなかった。
     自分の性格を充分分かっているナリコはときどき考える。
    「私のこのしつこい性格は」
     一体…。
    「いつまでイチさんのことを想うのだろう?」
     と。
    | sweetminami | sweetcitrous | 16:50 | - | - | - | - |