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     朝ごはんを食べて程なく、夏目は仕事に向かった。
     ナリコが玄関まで見送る。
    「夏目ちゃん。今日も朝ごはん、スーパーおいしかったよ。ごちそうさま」
    「いーえー」
     コンバースの黒いハイカットに足をさし入れながら夏目がナリコを見上げる。オールフロントの長めの黒髪、クロブチ眼鏡の隙間から黒目がちの目がのぞく。
    「あ、ナリコ。もし今日買い出しに行くんなら、ほうれん草買っておいてくれない?あとゴマね。すってないやつ。ゴマはすりたてが一番香ばしいからね」
    「分かった。明日はおひたしでもすんの?」
    「そうそう。お楽しみにね」
     やったー、とナリコ。夏目ちゃんが作るおひたし、好きなんだよね。
    「あ、あとそれと」
     もう片方の靴を履きながら夏目が付け加える。
    「箱ティッシュがなくなりそう。それもついでに買っといて」
    「へ?もう?なんか、なくなんの早くない?」
     そう何気なく聞いてみたが夏目は俯いて靴ひもを結びながらの姿勢のまま、
    「俺、花粉症だからね。この時期は仕方がないんだよ。頼んだよ」
     と、だけ言ってくる。
     うーん、はい。と、ナリコは不信ながら承知した。
     なんでそんなに減りが早いのよ。私の方が花粉症ヒドいんですけど。イチさんは全然花粉症とは無縁だし。
    「じゃあ、セレブ用の、鼻にやさしいタイプでも買っといてあげるよ。いってらっしゃい」
     ナリコがそう言うと夏目はいつものようにふわっと笑って、
    「サンキュ。んじゃ、いってきます」
     黒髪を春風に揺らしながら出掛けて行った。
     まぁ、買いだしくらいいいけどさ。
    「さて、今日はいい天気だし、先ずは洗濯でもしよう」
    一階にある、市川と夏目の部屋を抜けた裏庭に洗濯機がおいてあるので、洗濯物があるときナリコはふたりの部屋を通らなければいけない。
    「おじゃましまーす」
     眠る市川を起こさないようにそっと部屋に入る。
     若い男がふたりで暮らすシンプルな部屋。独特の匂い。
     高身長の市川と夏目が眠るダブルベッドはかなり大きい。ナリコはこんな大きいベッドをふたりが引っ越してきた日に生まれて初めて見た。
     とは言っても、高身長すぎる市川にとって、キングサイズのベッドでも大きすぎることはないようで、今日も案の定足の先がはみ出している。
    「デッカイ足…」
     ナリコにとっては、それすらも愛しいのだけれど。
     その次に、その愛しい足下にある、ゴミ箱がふとナリコの視界に入った。
     それは、昨日にはなかった、大量に捨てられたティッシュの山。
     あぁ、そう。
    「花粉症ねぇ…」
     ぬぐってるのは鼻水だけじゃないってワケね。
    | sweetminami | sweetcitrous | 16:49 | - | - | - | - |