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    「夏目くんに会ってみたい」
     ナリコと沙耶がいつも使うお気に入りのカフェで、抹茶オレをすすりながら沙耶が言った。
    「市川くんとは古い付き合いだったけどさ、まさかゲイとは知らなかったね。てっきり私のことが好きなんだと思ってたもん」
     美容師をしている沙耶のいる店に市川が行くようになり、意気投合したふたりは飲みに行くようになったらしい。
    「市川くん、いっつも私のこと指名してきてさ、そんで仲良くなって、周りのスタッフからも『市川さん、絶対沙耶さん狙いですよ』なんて言われてさ。そんなの完全に私のことが好きなんだって思うじゃん、普通」
     市川の前にもそういうことがあったりで割とモテてきた沙耶は、臆面もなくそう言ってのける。
    「ある日いつものように市川くんと遅くまで飲んでてさ、終電も逃しちゃって、そんで『市川くん、どうすんの、この後?』って聞いたのよ。なのにあいつ、『俺、帰ります』なんて言うじゃない?せっかく私が市川くんにチャンスあげたのに、なんで食いつかないの?って、そん時初めてこれは変だと思ったのよ。で、問いつめたら『彼氏がいる』なんていきなり言い出すんだからさー。ほんとビックリしちゃったわよ」
     その日の驚きを懐かしむようにふふふと沙耶が小さく笑う。
    「『つい最近ゲイになりました』なんてセリフ、私生まれて初めて聞いたわよ」
     もう後にも先にもそんなセリフを聞くことはないだろうけどね、と肩をすくめながら煙草に火をつける。
    「そんでその日沙耶ちゃんはどうしたの?」
     チョコレートパフェをつつきながらナリコが聞く。ここのパフェには小さくカットされたチョコブラウニーや甘酸っぱいラズベリーがたっぷり入っていて、その色合わせも綺麗で、ナリコはよく好んでオーダーした。
    「その日?私ったら、慣れない漫画喫茶で一晩過ごしたわよっ」
     またもあの日の事を思い出してそう怒りながら沙耶が言う。
    「もう、ドラゴンボールの話なら何でも聞いてよ」
     そう自嘲気味に笑いながら。
    「沙耶ちゃん。もしかしてイチさんのこと、好きだった?」
     からかい半分で、そう聞いてみる。
    「やーめーてーよーっ。ちょっと遊んでやろうと思った。そんだけよ。あんたと一緒にしないで」
     だいたい市川くんなんて、全ッ然タイプじゃないし、とも付け加える。
    「私ほどの女よりもいいっていう、その夏目くんとやらに会ってみたいのよ」
     そう言ってのける沙耶が羨ましい。
    「っつうことで、今からナリコんち行ってもいい?」
    「は?今から?」
    「そう今から」
     こうと決めたら即行動を取りたがる沙耶のこと。
     どうせダメって言っても来るんでしょ。
    「夏目ちゃん、まだ帰ってないかもよ」
    「いい、いい。待つから」
     ナリコの話を最後まで聞くこともなく、沙耶はもう伝票を手に立ち上がっている。
    「晩ご飯、何作ろうか?」
     そして、もう次の計画に移って平然と笑顔を向けてくる。
    「えー、じゃあ、取り敢えずスーパーに行こう…」
     結局ナリコもそうやって、沙耶のペースに巻かれるのが心地好かったりするのだから世話はない。
    | sweetminami | sweetcitrous | 00:56 | - | - | - | - |