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    「市川さん、今からドライブに行かない?」
     夏目の提案はいつも唐突だ。
     夕食後、紅茶をすする市川の横で、同じく紅茶カップを手にのんびりテレビを見ていた夏目が急にそんなことを言いだした。
    「え?行かないよ」
     夕食後には自分でブレンドした紅茶を飲むのが市川の密かな楽しみだった。
     いつもは寝るまでだらだらとビールを飲んでいる夏目も、今日は珍しく紅茶をセレクトしていた。
    封を切ったばかりの高級茶葉が放つ濃厚な甘い香りに、酒飲みの夏目もさすがに興味が湧いたらしい。
     市川は、飲みかけの紅茶をテーブルに置きながら、
    「だって俺、明日も学校があるもん。小学校ってホントに始業時間が早いんだよねー」
     と、続けた。
    「なんで?行こうよ」
    「なんでって、今答えたじゃん。『明日も朝早いから』って、それ理由にならない?」
    「ならない」
    「…」
    「そろそろお風呂にお湯入れてもいい?」
     二階で仕事をしていたナリコが軽快に階段を下りてきてふたりに尋ねる。
    「イチさん、この紅茶、すっごくおいしかったよ、ごちそうさま。また淹れてね」
    「うん、いいよ」
     おいしかったーともう一度言い、流しにカップを置くナリコに、
    「ナリコ。今からさ、ドライブに行かない?」
     首だけを後ろに向けながら夏目が聞いた。
    「ダメだよ、夏目。ナリコは今、仕事中でしょ?無理だよ、ね?」
     市川が同意を求めるように言ってみるが、
    「いいよ。行こう」
     簡単にその期待を裏切り、ナリコはあっさり応えた。
    「えぇ?あんなにも仕事、行き詰まってたじゃん」
     納得いかない市川が驚いたように聞くとナリコは、
    「何言ってんの、イチさん。イチさんの集めてくれた資料のお陰でたった今、お仕事終わりましたー。どうもありがとう。後は入稿するだけだよー」
     ふたりにむけてダブルピースをしてみせた。
    「マジで?やったね。んじゃ、出掛ける用意して。俺、駐車場から車回してくるからさ」
     車のキーを片手に、市川の横から立ち上がろうとする夏目。
    「オッケー」
     ジャケットを羽織り、そのポケットに財布と携帯電話を突っ込んで玄関先に向かおうとするナリコ。
     そんなふたりを、
    「ちょ、ちょっと待ってよ」
     と市川が制した。
    「何だよ。市川さんは明日も早いんでしょ?」
    「そうだけど、でもやっぱり俺も行こっかな。俺がいた方がやっぱ盛り上がるでしょ」
     テレ隠しにそんなことを言ってみるが、
    「イチさん、無理しなくていいよ」
    「そうだよ市川さん。無理すんなよ」
     なんてふたりに本気で止められてしまう。
    「違うよ、無理してないよっ。なんだよ、俺ばっかり仲間はずれにすんなよっ。ハミーゴにすんなよー、もうっ」
     必死で両手をバタバタと動かし、抗議する姿が可笑しい。
     そんな市川を見て夏目はフン、と鼻を鳴らし、いつものように冷たく言い放つ。
    「何それ?『ハミーゴ』って何よ?市川さん、それ絶対に学校で、特に生徒の前で言わない方がいいよ。バカにされる」
    「ちょっとナリコ、聞いた?ね、夏目って俺に冷たいんだよ」
     あぁ、またノロケだ。
    「知らないよ、そんなの。夏目ちゃん、行こ」
    「うん」
    「えーっ。ちょっと待ってよっ」
     ふたりの後を…っていうより夏目ちゃんの後を追うようにイチさんがバタバタ追っかけてくる。
     結局またふたりがこうやって、分かりにくい形でイチャついてんのをみせられちゃったなぁ…。
     でも、ま、いっか。私はそんなイチさんに恋してんだから。
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